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専門の病気について

肺高血圧症

肺高血圧症とは

肺高血圧症は、心臓から肺に血液を送る血管(肺動脈)の中の圧が上昇する病気です。通常の「高血圧症」と比べ若い方に多く、徐々に進行する息切れで発症する場合が多い疾患です。複数の病気のタイプがありそれぞれ特徴が異なりますが、第1群に分類される肺動脈性肺高血圧症では病状が進行すると心臓への負担が増し、心不全により命にかかわることもあります。以前は有効な治療がありませんでしたが、最近10年間でさまざまな治療薬・治療方法が利用可能となり、多くの患者さんが長く元気でいられるようになってきています。また、治療の進歩に伴って早期診断もとても大切になってきている病気でもあります。

病気のタイプ

肺高血圧症は、病気の原因や特徴などにより5つの病型に分けられます。

分類 説明
1. 肺動脈性肺高血圧症 肺の血管そのものの異常で肺動脈圧が上昇する病型。原因不明の場合(特発性)と原因(強皮症などの膠原病、遺伝、門脈圧亢進症など)のある場合があります。
2. 左心疾患に伴うもの 心筋梗塞、弁膜症などによっておこるもの
3. 肺の病気に伴うもの COPD(慢性閉塞性肺疾患)、間質性肺炎などによっておこるもの
4. 慢性の肺血栓塞栓症など 急性の肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)と異なり、徐々に肺の血管が血栓により狭くなったり閉塞したりするもの
5. その他  
症状

階段を上ったり、坂を上った時に感じる息切れが最も多い症状です。重症の方では失神や血痰・喀血などで発症する方もいらっしゃいます。どの症状も肺高血圧症だけにみられるものではないために、診断が難しい病気と考えられています。

必要な検査

肺高血圧症の診断の確定にはカテーテル検査(右心カテーテル検査)が必要です。この検査で測定される圧(平均肺動脈圧)が25 mmHg以上であれば肺高血圧症の診断が確定します。そのほか病型や重症度を調べるために、胸部レントゲン写真、心電図、呼吸機能検査、各種血液検査、胸部CT/MRI、運動負荷検査などが行われます。

治療

治療は病型よって異なります。

第1群:肺動脈性肺高血圧症

肺動脈圧を下げたり心臓への負担を軽減することで、症状や予後(生存期間)を改善することが治療の目標になります。心臓への負担を減らす一般的な対処(安静、塩分制限、酸素)に加え、多くの場合肺の血管を広げる薬が用いられます。薬は大きく3系統(一酸化窒素系、エンドセリン系、プロスタサイクリン系)に分類され、これらを1剤あるいは併せて使います。症状の軽い方は内服薬で治療を始めることが多いのですが、重症の方は注射薬で治療する場合が多くなります。現在、たくさんの薬が使われるようになってきており、下の「PAH患者会」(肺高血圧症の患者会)のHPで分かりやすく説明されていますので、ご参照ください。

http://www.pha-japan.ne.jp/treatment/index.html

また、「日本肺高血圧症・肺循環学会」のホームページでも病気や薬の説明や役立つサイトが紹介されています。

http://www.jpcphs.org/patients/index.php

第2群:左心疾患に伴う肺高血圧症

治療の原則はもともとある心疾患(弁膜症、心筋梗塞など)への対処になります。多くの場合は循環器内科で診療され、合併した肺高血圧症に対する特別な治療はないのが現状です。ただし、中には第1群の肺動脈性肺高血圧症が合併する場合もあると考えられ、その場合には肺動脈性肺高血圧症に対する治療薬の使用も考慮されます。

第3群:肺疾患に伴う肺高血圧症

基礎疾患としてCOPD、間質性肺炎などが重要です。治療の原則は基礎にある肺の病気に対する適切な治療です。肺高血圧症がある場合には特に酸素療法が大切です。酸素療法(在宅酸素療法)は通常低酸素血症がある方に対して行われますが、肺高血圧症が合併している場合には低酸素血症がなくても有効であると考えられています。また、この群の肺高血圧症では、第1群の肺高血圧症(肺動脈性肺高血圧症)の特徴が併存する場合があることが知られています。その場合には副作用に十分注意の上、肺動脈性肺高血圧症に対する治療薬が使われる場合があります。

第4群:慢性の肺血栓塞栓症など

他のタイプの肺高血圧症と同様に、心臓の負担を抑える生活上の注意が大切です。また、基本的にはすべての患者さんで抗凝固療法(血液が固まりにくくなる薬の内服)が行われます。また2015年にはこの病型に効果がある飲み薬(リオシグアト)が日本で使えるようになりました。一方で、できた血栓を薬で溶かすことは難しいため、血栓を除去する手術(肺動脈血栓内膜摘除術)が根治的治療として確立しています。また血栓により狭くなった肺動脈をバルーンで拡張するバルーン拡張術も特に日本で急速に広まっています。

第5群:そのほか

血液や腎臓の病気などさまざまな原因による肺高血圧症がここに分類されます。基礎となる病気に応じて適切な治療が行われます。

内科Iの診療状況
1.診療した患者さんの人数

2000年から2015年の間にカテーテル検査で診断が確定された患者さんの数は約200人です(下図)。肺高血圧症は比較的患者さんの数が少ない疾患ではありますが、専門的な検査・治療が可能な当科では多くの患者さんの紹介を受け、最善の診療を提供しています。特に膠原病に伴う肺高血圧症や呼吸器疾患に伴う病型の患者さんが多いのが特徴です。

図1. 患者数および内訳 (2000年以降)

2.患者さんの数の年次推移

当科へ紹介される患者さんの数は年々増加しています(下図)。新しい治療薬の開発や2015年の「肺高血圧症専門外来」の開設などにより今後も患者さんの数は増えることが予想されています。

図2. 当科での肺高血圧症患者数の推移

3.当科の特徴

・新しい治療
肺高血圧症に対する治療は年々急速に進歩しています。当科ではさまざまな内服治療薬に加え、持続静注療法、皮下注療法、吸入療法などが可能です。いずれの治療にも長所、注意点がありますが、これまでの長く豊富な経験をもとに最善の治療を行うことをお約束いたします。

・他科との密接な連携
肺高血圧症はさまざまな基礎疾患の上に発症することが多い病気です。特に強皮症などの膠原病、肝硬変などの消化器疾患、そのほか血液疾患や腎疾患などとの合併が多くみられます。当科では膠原病や腎疾患を専門とする内科IIに加え、消化器内科、循環器内科、肺高血圧症に関連の深い検査や治療にあたる放射線科、循環器・呼吸器外科と密接な連携をとり診療にあたっています。中でも、当院循環器・呼吸器外科は北海道で唯一慢性肺血栓塞栓症に対する根治的手術(肺動脈内膜血栓摘除術)が施行可能な科です。これまでに11例の方が手術を受け、すべての方で手術による症状や各種検査結果の大きな改善を得ることができています。

・日本国内主要施設との連携
当科は日本国内で多くの肺高血圧症患者さんを診療する施設と連携しています。特に、難治性症例に対するコンサルト・診療連携は重要であり、これまでに肺高血圧症に対する生体・脳死肺移植をそれぞれ岡山大学医学部付属病院、京都大学医学部付属病院で行ってもらいました。また臨床観察研究を介しての協力体制も構築され、肺高血圧症に対する症例登録研究(Japan PH Registry(JAPHR))および呼吸器疾患に伴う肺高血圧症の多施設共同前向き症例登録研究(Japan Respiratory PH Study(JRPHS))を介して新しい情報の交換を継続的に行っています。

・治験への参加
治験ではまだ承認されていないものの効果が期待できる治療を特定の施設でのみ受けることが可能です。当科ではこれまでにも複数の治療薬の治験を行っております。現在も未承認の薬の治験に参加しており、効果・安全面で適切な患者さんに対してはそれら新しい治療について提示させていただいています。

4.おわりに

肺高血圧症は「肺の血管の病気」とも言えますが、個々の患者さんにおいてはさまざまな合併症の併存などから肺の血管だけでなく「全身を診る」ことがとりわけ重要な疾患です。「全身を診る」ことをモットーとする内科Iでは、病気だけではなく肺高血圧症に関係する様々な事象をきちんと調べ親身に対処することで最善の診療を提供することをお約束いたします。