鼓膜チューブ挿入(留置)術について

北海道大学病院耳鼻咽喉科外来

1)耳の構造

下の絵は耳の構造を示しています。

Aの外耳道(耳の穴)の奥に鼓膜(B)があります。鼓膜のさらに内側には中耳(C)という空洞があり、この空洞は耳管(じかん)(D)という管で鼻と交通しています。鼻から吸い込んだ外界の空気の一部はこの耳管を通って、中耳に送り込まれます。

そのため、鼓膜の外側(外耳道側)と鼓膜の内側(中耳側)の空気圧は同じになります。外と内から同じ空気圧で押されることにより、鼓膜はピンと張った状態を維持できます。

音は、空気の振動として鼓膜を震わせます。その振動が耳小骨(じしょうこつ)(E)を伝わって、聞こえの神経である内耳(F)へと伝達してゆきます。鼓膜がピンと張った状態が最も音の伝わりやすい状態(聞こえの良い状態)です。

2)耳管からの通気の低下

様々な原因により、耳管から中耳への空気の通りが悪くなることがあります。

例えば鼻の病気が原因で、鼻⇒耳管⇒中耳への空気の通りが障害されることもあります。

また、耳管がもともと細い人や、曲がっていて通りの悪い人がいます。このような人も中耳への空気の入りが悪くなります。口蓋裂のある方も、この耳管の空気の通りが悪い構造をしています。

3)耳管の通りが悪いとどうなるの?

中耳への空気の入りが悪くなると、鼓膜の外と鼓膜の内(中耳)の気圧に差ができます(中耳の気圧が低くなる)。そうするとA:気圧の高い方から低い方へ向かって鼓膜が押されて徐々にへこんで来ます。また、中耳が陰圧(紙袋を口を当てて吸うと、袋が内側につぶれるような圧力)になりますので、B:周囲から体の中の水分が陰圧により滲み出し、中耳に水がたまります。

4)滲出性中耳炎の治療と予防

滲出性中耳炎になった場合、あるいはならないように予防するために様々な治療があります。

通常は薬を服用し、鼻の病気がある場合はそれを治療します。しかしながら構造上の問題で耳管の通りが悪い患者にはこれらの治療は無効です。そのような場合に行われるのが、「鼓膜切開術」や「鼓膜チューブ挿入(留置)術」です。鼓膜切開術は文字通り、鼓膜を小さく切って穴を開け、中耳にたまった水を排出します。外来で局所麻酔で行うことが可能です。切開した穴は通常1ー2週間で塞がってしまい、時間がたつとまた水がたまり、何度も切開が必要になる可能性もあります。そのような場合には、切開した場所が塞がらないように小さなチューブを入れます。これが「鼓膜チューブ挿入(留置)術」です。小さなお子さんの場合は術中に動いてしまうため、通常は入院の上、全身麻酔で行います。片耳5分くらいで終了しますが、中耳炎のこじれた人では30分くらいかかることもあります。

5)チューブ挿入に伴う合併症とその後の生活の留意点

 チューブは通常数ヶ月くらい入っていて、その後自然に脱落します。人によっては2年以上入っていることもありますが、逆に手術の翌日に抜けてしまうことも稀にあります。

抜けた場合は、それぞれの患者の状況に応じて、再度チューブを入れることを考えます。

子供の場合は、成長とともに耳管の通りが良くなることもあるので、そのような場合はチューブの再挿入は不要になります。

 チューブが入って中耳の水が抜けることによって、通常は聞こえが良くなります。チューブの影響で逆に聞こえが悪くなることは極めて稀です。

 チューブは人工物なので、感染を起こして耳漏(耳だれ)の原因になる可能性が少しあります。通常は抗生物質の点耳・内服で対処できますが、感染の回数が多い場合はやむを得ずチューブを抜くこともあり得ます。

 チューブが抜けた後の鼓膜の穴は通常自然にふさがりますが、たまに穴がふさがらず、将来的にこの穴を閉鎖する手術をしなくてはならない人がいます。さらに稀にですが、チューブを入れた穴の周囲から真珠腫という特殊な中耳炎を発症する人もいます。ただし、これらの人は、チューブを入れて治療をしておかないと、もっと中耳炎がこじれる可能性が高いです。

 入浴や洗髪は通常通り可能で、水遊び程度のプールも問題ありません。潜るような本格的な水泳は避けた方が無難ですが、どうしてもという場合は医師と相談して下さい。

 チューブの挿入の際の合併症発生率は低いですが、チューブの中耳内への脱落、聴力の低下、出血などがあります。その他、極めて稀な合併症として、味覚低下や顔面神経麻痺が考えられます。

詳細については耳鼻咽喉科医師からの説明を受けて下さい。