先端医療研究
最 近 の 歯 科 治 療

1.歯周組織の再生医療

 歯周病に罹患すると、歯を支える組織(歯周組織)が少しずつ破壊されて、歯がぐらぐらと動揺するようになります。
 著しく歯周組織が破壊されて消失した歯は、抜歯せざるを得ないのが現状です。
 歯周組織を再生することは、歯周病の患者さんの大きな願いです。
 歯周組織再生には歯槽骨や歯根膜から細胞が増殖しやすい条件を作る事が重要で、再生を狙う創部に、周囲の歯槽骨や
歯根膜から細胞が増殖してきやすいようにバリアー膜を応用する方法が開発され、GTR法と呼んでいます。
 現在歯科診療センターでは、高度先進医療としてこの治療を行っています(図1)。


 この概念は骨の再生にも応用されGBR法と呼ばれています。
 さらに、歯の発生期に歯周組織の発生を誘導する蛋白質を、外科手術後の創部に応用することで歯周組織の再生を誘導するという考えで、エムドゲインが開発され、GTR法とほぼ同じ成績が期待できます。
 しかし、これらは歯の周りの一部の歯周組織だけが消失した比較的まれな症例にしか効果がありません。
 大部分の歯周病の患者さんに有効であると期待されているのが、BMP(骨形成蛋白)の応用です。
 もともとは骨を形成する蛋白として見つかったものですが、セメント質や歯根膜も再生されます。
 現在までに多くの動物実験研究が本学と東京医科歯科大学の歯学研究科でなされています。
 まだ、臨床応用が認可されていませんが歯周組織再生医療として極めて有望です。
 (歯学研究科・口腔健康科学講座・歯周病学分野 川浪雅光)



2.インプラントと歯牙移植
 歯が失われると、その部分は義歯によって補われます。しかし、義歯、とくに可撤性義歯に適応できないあるいは十分な機能回復ができない患者さんが多くみられます。
 近年、このような悩みをもった患者さんに対して、インプラントや自家歯牙移植などを応用することにより、快適な生活を取り戻すことができるようになりました。
 (図2)

図2 インプラントと歯牙移植
右下顎智歯を右下顎第1大臼歯欠損部へ移植し、右下顎第2小臼歯欠損部位にはインプラントを行った。
なお、右上顎臼歯を部分歯槽骨切り術にて上方へ移動した。
口腔内写真: A(治療前)、B(治療後)
 X線写真: C(治療前)、D(治療後)

 歯科におけるインプラントとは人工歯根を用いた移植治療を意味します。単に人工歯根をインプラントと呼ぶこともあります。
 1960年代後半、Branemark博士により組織親和性の高いチタン製人工歯根が開発され、無歯顎の患者さんに臨床応用されました。
 さらに基礎的研究と臨床的研究も進められインプラント治療が高い治療成績が得られるようになり、最近では1歯の欠損から無歯顎まで広く応用されるようになりました。
 また、自家歯牙移植もインプラントと同様に歴史的には古くから行われてきましたが、多くの問題があり臨床応用は限られたものでした。
 しかし、80年代後半にAndreasen博士らにより自家歯牙移植の基礎的研究が進められ、臨床的にも高い成功率が得られるようになりました。
 その結果、歯の移植治療が一般臨床において再び注目されるようになってきました。
 今後、インプラントや自家歯牙移植の研究とともに、歯の再生医療の研究が進歩発展することにより、将来は義歯で悩む人はいなくなるかもしれません。
 (歯学研究科・口腔健康科学講座・高齢者口腔健康管理学分野 井上農夫男)



3.顎関節症

 顎関節症は、あごの関節のクッション(顎関節円板)や骨のずれ、変形、咀嚼筋の異常緊張などにより顎関節や咀嚼筋の痛み、開口障害、顎関節雑音などの症状がでる疾患です(図3 顎関節と咀嚼筋の構造)。


 昔は、耳鼻科や整形外科を受診する場合が多く、この疾患の古典型の一種ともいえるコステン症候群を1934年に報告したのはアメリカの耳鼻科医でした。
 しかし、顎関節症は咀嚼機能や咬合と関連あることが多いため、現在では、歯科医が最も多く治療に当たっており、う蝕、歯周病、歯列不正に次ぐ歯科疾患として患者数は年々増加しています。
 当院の歯科診療センターでも、初診の患者さんの約5分の1が顎関節症で受診されています。

 原因としては、咬み合わせの異常、無理なあごの使い方、歯ぎしりなどの悪習癖、精神的ストレスなどが考えられており、病態について日本顎関節学会ではI型(咀嚼筋障害)、II型(関節包・靭帯障害)、III型(関節円板障害)、IV型(変形性関節症)、V型(I?IV型に該当しないもの)に分類しています。
 理学療法、薬物療法、咬合治療、外科的治療など種々の治療法がありますが、その原因や病態の複雑性のため、従来の歯科の診療科の枠を越えた総合的な取り組みが必要とされます。

 北大では、1981年、全国の大学に先がけて顎関節治療部門を設け、総合的な顎関節症治療に取り組み現在に至っています。
歴史は意外と古い顎関節症ですが、原因や病態については解明すべき点が多く残されています。また、顎関節症や咬合と肩こり、耳症状、頭痛、姿勢、睡眠時無呼吸などの医科領域の諸症状との関連の可能性も推測されながら、まだ明らかではありません。
 そのため、顎関節症とその周辺は歯科のトピックとして現在も注目され続けています。
 (高次口腔医療センター・顎関節治療部門 山口泰彦)


 歯科診療センターでは以上のような治療のほかにも、最近の歯科領域の疾病構造の変化へ対応するために障害者歯科、高齢者歯科、口蓋裂、言語治療、顎変形症、歯ぎしり、口臭、摂食・嚥下、審美歯科などに関する専門外来を設け、一般歯科では治療が難しい患者さんに対する診療実績を重ねてきています。
 これらの専門外来については、また機会があれば,ご紹介したいと思います。