たばこは健康に百害あって一利なし

健康増進法施行を契機に禁煙の輪を広げよう!

北海道大学大学院医学研究科社会医学専攻予防医学講座老年保健医学分野 教授 玉 城 英 彦

 喫煙は、がん全体の原因において3割を占めるという報告がある。
 その他、心疾患、呼吸器疾患など多くの疾患との関係が指摘されている。
 たばこによる死者は世界中で現在年間400万人、2030年には1000万人に上るとWHO(世界保健機関)は推定している。
 WHOは、「たばこは国が承認している最大の殺人鬼である」と言っている。

 わが国の喫煙率(平成13年)は男性で45.9%となっており、フランス(39.0%)、英国(29.0%)、米国(27.6%)よりはるかに高い。
 20-50代の男性では5人に3人が喫煙者である。
 女性の喫煙率は現在、これらの国に比べて低いが、若年層では上昇傾向にある。
 また北海道は国内有数の喫煙地帯で、男性は53%、女性では全国14%に対して24%と特に高い。
 北海道は、交通事故死亡者数が全国1位であることでも有名だが、こんなところにも、北海道民の命を脅かす要素が潜んでいる。
 北海道では離婚率や性感染症の感染率も高いが、これらはいずれもたばこと間接的な関係がありそうだ。

 北海道で喫煙率が高い原因は、北海道では開拓精神が未だ残って比較的自由な環境だから、その名残として他人にあまり干渉しないから、広大な大地でのんびりしているから、などいろいろ挙げられているが、本当の理由は誰も知らない。
 また、その理由を科学的に調査した人はいないと思われる。
 わが国で、特に北海道において、禁煙対策は公衆衛生上の最大の問題であると言っても過言ではない。
 しかし、禁煙対策が積極的に実施されているところは少ない。全道的な取り組みが緊急の課題であることは自明である。

 健康日本21の策定過程で「成人喫煙率の半減」という数値目標が削除されたように、これまでわが国は喫煙に対して寛大であった。
 しかし、世界の潮流は禁煙に向かっている。
 WHOは現在、「たばこの害から現在および将来世代の健康を守ること」を目的として「たばこ規制枠組み条約」の発効に向けて最終的な追い込み段階にある。
 最終案には包装への表示規制やたばこ広告の禁止が定められており、これまで喫煙に寛大だったわが国も転機を迎えると見られる。
 わが国では今年5月、生活習慣病予防を念頭に置いた健康増進法が施行された。
 この法律では受動喫煙の防止を謳っており、学校、病院、事務所など人が集まる施設の「管理者」に分煙の徹底を義務づけている。
 この法律の施行を契機に、日本でも禁煙の気運が高まってきた。北大病院でも抜本的な対策が取られてしかるべきである。
 近い将来、禁煙対策の良し悪しで病院のランク付けが決められるようになるかも知れない。北大病院や大学において、より積極的な喫煙対策が求められている。

 また喫煙対策は、施設の問題だけではなく、喫煙者および非喫煙者個人個人の働きかけ、マナーも大切だ。
 それぞれの団体、地域そして私たち一人一人が、「禁煙に向けた努力」と「禁煙を支援する環境作り」を日常生活の場で実践することが、たばこのない健やかな社会につながると考える。
 北大医学部教・職員、学生を対象に私たちが最近行ったアンケート調査によると、喫煙率は男性20%、女性6%で、道内平均と比べると低かった。
 また喫煙者の実に70%が禁煙への欲求を持っていた。
 これらの人々をいかに実行に移させるかが禁煙対策の鍵である。
 ストレスへの対処法の導入、ニコチンガムやパッチの使用など具体的な指導方法を持って禁煙を支援しなければならない。
 医学部や病院においてすぐ実践に移したいものである。


写真:喫煙学生も積極的に参加−たばことコンドーム交換イベントの風景(北大キャンバス、平成15年5月30日)