新規ドラッグデリバリーシステムを用いた新たな胸腔鏡画像支援システムの開発

光線力学的癌診断薬5-aminolevulinic acid(5-ALA)
胸腔鏡手術は体へ侵襲が少なく、高齢やハイリスクの患者にも比較的安全に施行可能であり、その需要が増大していますが、開胸手術と異なり直接肺の病変を触診することができないため、腫瘍の位置が確認できないという欠点があります。現在行われている肺腫瘍のマーキング法としては、①X線非透過の物質(金マーカーなど)を腫瘍近傍に留置し、術中透視を併用する方法 ②ハイブリッド手術室にて手術中にCTを撮影し、腫瘍近傍にクリップを留置しマーキングする方法 ③ICGやインジゴカルミンのような色素を腫瘍近傍の肺臓側胸膜直下に注入に視覚的に確認する方法 ④体表よりクリップ状の針(VATSマーカー)を留置する方法、があります。しかし、いずれもX線被爆の問題、X線非透過の物質の体内での安全性、マーカーの逸脱によるマーカーの遺残、穿刺による方法は気胸や空気塞栓といった重篤な合併症を来す可能性などが指摘されています。また、いずれの方法も深部の病巣の同定が不確実で、切除断端に腫瘍が遺残するリスクがありました。現時点で安全で確実なマーキング法は確立されておらず、我々は新たな方法の確立を目指しています(4)
光線力学的癌診断薬5-aminolevulinic acid(5-ALA)は、生体内でprotoporphyrin IXPPIX)を経由してHemeに代謝されますが、悪性腫瘍では正常細胞に比べPPIXが蓄積することが知られています。PPIXは青色光線(400-410nm)により励起され、赤色蛍光(635nm付近)を発する性質があり、これによりがん診断を行うことができます。PDDにおける5-ALAの応用は、大腸癌や胃癌を対象としたリンパ節転移や腹膜播種を診断する先行研究によりその有用性が示されてきましたが、感度が低い、偽陰性率が高いといった理由で現在のところ臨床応用には至っておりませんでした。新規ドラッグデリバリーシステムを用いた新たな胸腔鏡画像支援システムの開発
共同研究者である北海道大学医学研究院消化器外科学教室Ⅱで開発された新規蛍光内視鏡システムは、現在北海道大学病院において段階的に臨床応用が行われています。我々はこのシステムを用いて肺がんの診断に応用することを目指しています。本研究の独創的な点は、蛍光画像と同時に蛍光強度・波長シフトなどスペクトル解析により、詳細な蛍光パターンが把握でき、深部の腫瘍局在診断が可能な点にあります。現在、より効率的な腫瘍マーキングのみならず、5-ALAの腫瘍への特異的集積性を得るために新規ナノ粒子の開発を行っているところであり、肺癌の術中転移リンパ節の同定、また肉眼にて判断困難な微小転移(リンパ節転移、胸膜播種)の存在診断も本システムを用いることにより実現可能となると考えられ、その研究意義は非常に大きいと考えています。


注釈をつけます