インドシアニングリーンおよび近赤外線胸腔鏡を用いた手術支援ナビゲーションに関する研究

近年では小型肺癌病変に対して肺機能温存を目的とした積極的縮小手術として、肺区域切除が選択される機会が増え良好な成績を収めつつあります。また、転移性肺腫瘍に対しては、正常肺組織をできるだけ残すために、縮小手術である肺区域切除や肺部分切除が積極的に選択されます。実際、当科でも積極的縮小手術として肺区域切除の施行例は年々増加してきています。しかし,区域間面の同定作成方法に関しては、肺区域切除は通常の肺葉切除よりもよりいっそう煩雑です。肺の区域切除、肺葉切除などは全て気管支、血管、肺実質を処理して手術が行われます。このとき肺実質の処理の際に、肺を「残す側」と「切除予定の側」との境界を同定するのが困難な場合があります。一般に、これまで私たちは肺区域切除の際には、切除する肺区域に経気道的に空気を注入して、含気の有無で境界を区域切離線として見極めてきました。また、逆に切除する肺区域の区域気管支を閉鎖した状態で、他の肺区域を換気することで、切除する肺区域のみが虚脱する状態を作り、区域切離線を定めることもありました。しかしながら、肺気腫などで肺が強く痛んでいる場合、肺は虚脱しづらく、Korn孔を経由して隣接する区域から空気が流れ込んできてしまい、境界が不明瞭になることがあったり、狭い胸腔で肺を膨らませなければならないため手術中に視野の妨げとなることがありました。また、小型病変は胸腔鏡での視認および触知が困難で、病変の局在を同定できない場合も多く、小型病変が切除予定区域の中央に存在する場合は問題ありませんが、区域間面近傍に存在する小型病変に対する肺区域切除では腫瘍遺残のリスクが少なからずあるため、より正確な肺区域切除を行うための手術支援システムの開発が望まれておりました。ICGを用いた肺区域切除の術中イメージ
インドシアニングリーン(indocyanine green; 以下ICG)は暗緑青色のトリカルボシアニン系の水溶性色素で、従来は肝機能評価、心機能評価および眼底造影検査に用いられてきたものです。ICGの最大吸収波長は血液中の血漿タンパクに結合した場合800-810 nmであり、これは近赤外線領域ですが、806 nmの近赤外線に励起されることでICGは波長830 nmの蛍光発色をします。近赤外光胸腔鏡は、造影剤としてICGを用い、近赤外光胸腔鏡本機から出る近赤外線を肺に照射する当てることで、血管中に流れるICGを蛍光発色させ、特殊CCDカメラが動画としてモニターに映し出すことで、血流の有無をリアルタイムに確認することが出来るというものです。近年、ICGと近赤外線光を用いた手術支援システムの開発が盛んに行われており、特に区域切除に対するICG蛍光ナビゲーションは全国的にもその意義が高まりつつあり、保険適応として認可される予定です。われわれは、このICGと近赤外光胸腔鏡を使用した手術支援ナビゲーションに関する臨床研究をすすめています。術中に区域間線の同定が容易に可能となり、肺区域切除を正確に行えるようになるものと考えられます。


注釈をつけます