ナノ粒子を用いた胸部悪性疾患に対する新規光線力学的療法(Photodynamic Therapy(PDT))の開発

①肺がんに対するPDT

肺がんは悪性新生物による死亡第1位を占める疾患であり、患者数は増加の一途をたどっています。肺がん患者の45%は発見時に既にリンパ節転移を伴った進行肺がんであり、肺がん転移リンパ節に対する治療としては現在、化学療法あるいは放射線療法併用療法が行われておりますが、完全に治療できるわけではありません。図1 ナノ粒子を用いた新規光線力学的療法のイメージまた別な問題点として、CTの普及によってより多くの早期肺がんがスクリーニングされるようになってきておりますが、肺がんは早期発見が長期生存に寄与することが言われており、原発巣に対しては胸腔鏡手術を含めた手術が早期肺がんの標準治療です。しかし、低肺機能や高齢といった手術不能な患者さんに対しては、現在、体幹部定位放射線治療(SBRT)などが行われておりますが、複数回の治療は不可である、間質性肺炎を背景とする患者さんには使用できない、局所制御率では手術に劣るなどの諸問題が指摘されています。こういった多数の患者さんに対して肺がん原発巣に対する新たな低侵襲治療法の開発が望まれています。図2 ナノ粒子のがん細胞への集積 そこで今回我々は、この現状を打破するための新規の治療プラットフォームとして、ナノ粒子を用いた光線力学的療法(Photodynamic Therapy(PDT))を併用した新規治療法の開発を進めています(図1)。PDT治療とは、正常な部位よりも癌細胞にたくさん集まる性質を持つ光感受性物質にレーザー光をあてることで、光化学反応によって生成される活性酸素の一種の強い酸化作用により、腫瘍組織を選択的に変性壊死させるもので、正常組織にはダメージを与えず、癌の部分だけを選択して治療するものです(図2)。現在、我が国ではPDTは気管支鏡下に肺門部早期肺がんに認可を受けているのみですが、我々は肺癌に対して内視鏡を用いたさらなるPDT適応の拡大を目指して日々研究を行っています。

②悪性胸膜中皮腫に対するPDT

悪性胸膜中皮腫(MPM)は侵襲の大きい胸膜外肺全摘術(EPP)が根治手術としてこれまで行われてきましたが、近年は肺を温存する拡大胸膜切除(Extended Pleural Decortication (EPD))が広く行われるようになってきています。図3 マウス中皮腫モデルを用いたPDT治療の実際 しかし、EPDは理論上、癌細胞の顕微鏡的残存は避けられず、手術に加えた追加局所治療の開発が急務となっています。悪性胸膜中皮腫においてEPDPDT治療はすでに米国で臨床試験が行われていますが、高い合併症率のため一般的な臨床応用には至っておりません。また、MPMの患者さんは腫瘍の性質上、病側肺の呼吸機能が低下し、体の負担の少ない低侵襲な治療法の選択が望まれています。我々は、より腫瘍深部まで治療できることが期待される腫瘍選択性新規ナノ粒子を用いて、現在極めて予後の不良であるMPM対する胸腔鏡を用いたPDT治療を確立し、PDTのさらなる臨床応用の拡大を目指します。現在は手術適応のないMPM患者さんに対する化学療法や放射線療法以外の新たな治療法の開発を目指しています(図3)。


平成29年度 科学研究費助成事業 研究活動スタート支援 (研究代表者:加藤達哉)
2017年度 公益財団法人秋山記念生命科学振興財団 研究助成 (研究代表者:加藤達哉)
平成29年度 公益財団法人内視鏡医学研究振興財団 (主任研究者 加藤達哉)