トロント留学体験記

73期 加藤 達哉


━━━留学先はどこですか?
 私は肺移植の勉強のために2013年より世界でも有数の肺移植のメッカであるカナダのトロント大学胸部外科に留学する機会をいただき、トロント総合病院(Toronto General Hospital (TGH):図1)でToronto Lung Transplant Programのクリニカルフェローとして実際に肺移植の臨床に携わることができました。トロントは世界的にも有数の肺移植施設であり、胸部外科のスタッフだけで現在9名おりますが、このうち肺移植を担当している8名が日々の臨床をやりながら交代で移植のオンコール当番となり、3-4名のフェローと一緒に(レジデントは基本的にいません)昼夜を問わず行われる移植手術に対応しています。TGHではだいたい年間平均120-130例の肺移植が行われていますが、私のいた2016年度はそれまでの記録を更新し、1年間で計145例もの肺移植を経験することができました。昨年の日本全体での移植数が60-70例程度であることを考えると、いかに多くの肺移植が単一施設で行われているか理解していただけると思います。

━━━どのような環境でしたか?
 Toronto Lung Transplant Programは外科医としては周辺の援助の環境も整っており、ドクターだけでも外科医のほかに肺移植専門がである移植内科医が9名もスタッフとして常勤し、その他移植感染症科、ICU、麻酔科などの専門的なスタッフが周術期と術後管理、そして何と術後の外来フォローまで全部してくれます。コメディカルも充実していてICUの移植専門のナースのほか、北米ではPhysiotherapistと呼ばれる呼吸リハビリの専門家がいて、また北米ではRespiratory Therapistと呼ばれる専門家が人工呼吸器の管理までもやってくれる(ベンチレーターの細かいweaningなども全部やってくれます)ので、外科医は本当に手術、外科的なことだけをしていればよく(というかそれ以外の時間は実際あまりないのですが)、基本的には必要なときにだけオンコールで呼ばれるというシステムが出来上がっていました。肺移植のサージカルフェローは私のときは4名いましたが、ドナー発生の連絡がTrillium Gift of Life Network (カナダの臓器移植ネットワーク)から来ると、基本的には移植コーディネーターとフェロー1人だけで(ときに肝臓チームや心臓チームといっしょに)専用のチャーター機や車でドナー病院へ行って肺を摘出してきて(図2)、 TGHに残っているスタッフ1人と残ったフェロー2人でレシピエントに移植するといったスタイルができあがっていました。そのときのオンコールのスタッフにもよりますが、フェローは少数精鋭のため基本的には手術はほとんどやらせてくれて、スタッフはそれをsuperviseするという雰囲気でしたので、自分も1年間でかなりの数の肺移植を実際に執刀することができました(図3)。その代わりフェローは全員が常にオンコール状態ですので、時間的にはかなり忙しく、移植をやっている間にも別のドナーが同時に発生したり、ひどいときは3件同時に発生というときもありました。そういう場合は(通常は定期手術に影響しないよう真夜中を通して行われる)ドナー摘出に行って帰ってきて、そのまま連続して7-8時間のレシピエント手術にも入らなければなりません。術後出血で再開胸したり、その合間をぬって体外式膜型人工肺(ECMO)のカニュレーションをしたり、ICUで術後状態の悪い患者さんに気管切開をしたり、肉体的にはもちろん、精神的にも休まる時間は全くなかったのですが、その分仲間との絆は深まり、今でも頻繁に連絡を取り合うとても良い仲間です。

━━━後輩にアドバイスがあれば教えてください
 もし後輩達で海外の施設で、研究でも臨床でも学んでみたいことがあるのであれば、是非とも情熱を持って若いうちからどんどんチャレンジしていってほしいと思います。「
実際に自分の眼で見てくる」ことは外科医の一生の中でもかけがえのないものとなると思います。また、日本全国の医局から来ていた先生方とは今でも学会などで会うと飲みに行ったり、共同研究の話ができたり、全国各地にすばらしい仲間ができたことは、自分の人生にとっても大きな宝となりました。留学期間中は家族も含め本当に多くの方々に支えられて、有意義な海外留学生活を送ることができ、素晴らしい先生方、同僚にも恵まれました。ただただ感謝、感謝の気持ちでいっぱいです。また、貴重な留学という機会を与えてくれた同門の先生方にこの場を借りて重ねて感謝申し上げます。

米国胸部外科学会2014とToronto General Hospital訪問

2014年4月26-30日AATSに参加。Toronto General Hosipitalを訪問

広島大学の岡田教授と一緒に。TGH留学中の加藤達哉先生とラボダヴィンチ手術のトレーニング。加藤先生も活躍中。


TGHは複数の病院の集合体の一つです。加藤先生のラボトロント大学。歴史を感じます。

ページの先頭へ