診療科のご紹介

新たな診療科_北海道大学病院循環器・呼吸器外科

呼吸器外科診療教授 加賀基知三


 北海道大学医学部外科系診療科の再編に伴いまして、循環器・呼吸器外科として再出発することになりました。北海道大学において「呼吸器外科」は,旧第二外科(腫瘍外科学)のなかの呼吸器グループとして存在しました。臓器別診療科構想の一端として旧第二外科は消化器外科Ⅱとなり、呼吸器グループは循環器外科と合流し「循環器・呼吸器外科」が発足となりました。内容はいわゆる胸部外科となりますが、私たちはこれを新しい形の協力体制ととらえています。北海道大学では診療科名として初めて登場した「呼吸器外科」の立場から,その成り立ちや現状,今後の展望について紹介します。

呼吸器外科の成り立ち

  そもそもはわが国における胸部外科のはじまりは、肺結核の外科治療としての「肺外科」でありました。(第一世代)良性疾患に対する機能温存手術として区域切除が盛んにおこなわれたのもこの時期です。化学療法の発達とともに肺結核は減少し、肺癌に対する肺葉切除が主体となりました。(第二世代)また、限界に挑戦する目的で拡大手術、合併切除なども盛んに行われましたが,その手術成績は不安定なものでした。エビデンスの構築とともに拡大手術の手術適応は限定されることになりました。一方では新しいアプローチとして胸腔鏡手術Video-assisted Thoracoscopic Surgery(VATS)が登場しました。(第3世代)当初、その安全性や根治性の面から敬遠されましたが、次世代の外科医にとっては魅力あるもので徐々に全国に広まりました。現在はまだ発展途上にありますが,呼吸器手術の標準的なアプローチとなりつつあります。

北海道での呼吸器外科 

  わが国における死因別死亡率の1位は癌ですが,その中でも急増する肺癌が1995年以降は断然1位です。年間死亡者数は男性50,395人,女性19,418人(厚生労働省「人口動態統計」2010年)で,なおも増加中です。一方,北海道における肺癌死亡率は18.8(75歳未満年齢調整死亡率,人口10万年対,全国平均14.9,2009年)は全国1位です。この原因はまさしく男性35%,女性16%(ダントツトップ!)の高い喫煙率に他なりません。健診の受診率の低さも加え,がん対策の立ち遅れは医療施設のみの責任ではなく,官民一体となった取り組みが必要です。
北海道大学では早い時期から胸腔鏡手術に着手していて、わが国における低侵襲手術の先駆的な役割を果たしました。現在では二窓法Two Windows Method,一窓法one window and punctures methodを確立し,世界で最も小さな傷の手術を実現しました。しかし、一方では進行肺癌に対する拡大手術や集学的治療としての手術にも積極的に取り組み、「早い時期の肺癌には呼吸機能を温存した区域切除などの縮小手術および胸腔鏡を用いたより低侵襲な手術の追及」と「進行した肺癌には化学療法、放射線療法と組み合わせた外科切除の安全性の確保と治療成績の向上」を診療,研究の2本柱として現在にいたっております。図1に本学における肺悪性腫瘍手術の推移をグラフに示します。肺悪性腫瘍の外科治療の対象が年々増加していることが明確にわかりますが,低侵襲手術の比率が極めて高いことが本学の呼吸器外科の特徴です。またあらゆる方面のバックアップが得られるのも,一般病院やがんセンターにはない本学の特徴でもあります。より低侵襲な手術を実現することは,今後増加する高年齢層や耐術能の低い症例にも治療の可能性を広げることにもなります。肺癌の死亡率を減少させるためには,関連診療科と連携した集学的治療や基礎医学教室との研究協力体制が不可欠です。今まで構築した体制をさらに強力なものとしつつ,循環器・呼吸器外科としての新たな協力体制によって相互の発展が期待されます。

呼吸器外科と循環器外科のコラボレート

 進行肺癌に対するエビデンスが明らかとなることは、別の意味では外科治療の限界を知ることにもなります。もちろんエビデンスは自らが作っていくもので固定的なものではありませんが、全身疾患systemic diseaseに対して外科治療は無力です。しかし局所疾患local diseaseにもかかわらず、歯がたたないこともあります。いわゆるT3-4(胸壁・脊椎浸潤、心臓大血管浸潤)肺癌などです。合併切除して再建する、人工心肺回路下に合併切除する,また最近では大動脈ステントを留置して大動脈壁を合併切除することが今の私たちには可能です。一方,低侵襲心臓血管手術Minimally invasive cardiovascular surgery: MICSは冠動脈バイパスや弁置換術に対して行われている低侵襲手術です。本学の呼吸器外科では早くから胸腔鏡手術を取りいれ、すでに安定した技術として確立していますので,さらなるコラボレートで新しい低侵襲心臓血管手術が実現できます。北海道大学病院は2010年7月に心臓移植実施施設として認定され,シミュレーションや研修会を繰り返し,第1例目心臓移植実施まで秒読みの段階です。現在わが国における肺移植認定施設は8施設です。北海道で肺移植を実現しすべての臓器移植が道内で完結することが次のわれわれの責務と心得,次の世代に向けてすでに動き出しています。

おわりに 

  われわれの目下の仕事は良質な外科医を育成することにあります。外科医志望者数の減少は近い将来,医療全体の大きな問題となると危惧しています。魅力ある未来を創造し指南することはもとより,互いに協力して外科の魅力を親切に伝える努力も必要です。新しい「循環器・呼吸器外科」に期待して下さい。

(2013年 北大医学部同窓会新聞より抜粋)

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